お盆休み。まとまった時間ができて、久しぶりに実家に帰り、親戚から「仕事はどう?」と聞かれる。地元の友人と飲みに行けば、それぞれのキャリアの話になる。日常から離れて、ふと自分の働き方を振り返る。
この時期に、転職を考え始める人は多い。実際、求人市場も夏季休暇明けから9月にかけて動きが活発になる。会社の外から自分を眺める時間ができると、それまで見えなかったものが見えてくるからだろう。
今回は、そういうタイミングにいる方に向けて書きたい。転職を勧める記事でも、思いとどまらせる記事でもない。判断を急がないために、休みのあいだに整理しておくといいことについての話である。
休み明けの勢いで動くと、たいてい失敗する
まず伝えておきたいのは、この時期の判断には特有のバイアスがかかりやすい、ということだ。
長期休暇中は、日常業務から離れている。目の前の仕事の手触りがなく、記憶の中の「嫌だったこと」だけが残る。理不尽だった上司の発言、終わらなかった案件、報われなかった残業。そういうものが、休みという余白の中で反芻される。
一方で、日々の中にあったはずの小さな充実は思い出しにくい。うまくいった打ち合わせ、感謝された場面、同僚との何気ないやりとり。こうしたものは記憶に残りにくく、休暇中の内省では過小評価される。
その状態で「もう無理だ」と結論を出し、休み明けに勢いで応募し、面接を受け、内定が出たから転職する。この流れで動いた人が、半年後に「早まったかもしれない」と感じるケースを、採用に関わる立場から何度も見てきた。
誤解のないように言えば、転職そのものが悪いのではない。問題は、判断材料が揃っていない状態で決めてしまうことだ。休みという特殊な状況で生まれた感情を、そのまま行動の根拠にしてしまうことに危うさがある。
だからまず、焦らないでほしい。転職市場は逃げない。今週決めなければ手遅れになる、というような話ではない。
整理すべきは「何に不満なのか」の解像度
転職を考え始めたとき、多くの人は「今の会社が嫌だ」という漠然とした感覚からスタートする。だが、この状態のまま動くと、次の会社でも同じことが起きる可能性が高い。
まずやるべきは、その不満を分解することだ。
不満の正体は、大きく分けて3種類ある。環境の問題か、職種の問題か、自分の状態の問題かである。
環境の問題とは、会社や上司や制度に起因するもの。評価が不透明、給与が上がらない、労働時間が長い、人間関係が悪い、成長機会がない。これらは、会社を変えれば解決する可能性が高い。転職が有効な手段になる。
職種の問題とは、仕事の内容そのものが合っていないこと。営業が向いていない、細かい作業が苦痛、人と話す仕事がつらい。この場合、同じ職種で会社だけ変えても、また同じ壁にぶつかる。必要なのは転職ではなく職種転換かもしれない。
自分の状態の問題とは、疲労や体調、あるいはプライベートの事情が仕事の見え方に影響しているケース。この場合、環境を変えても改善しないことがある。まず休養や生活の立て直しが先になる。
この3つは重なることも多い。だが、どれが主因かを見極めないまま動くと、手段を間違える。「転職したい」ではなく「何を解決したいのか」から始めるべきだ。
紙に書き出してみるといい。今の仕事で嫌なことを10個挙げて、それぞれが3種類のどれに当たるかを分類する。この作業だけで、進むべき方向がかなり見えてくる。
求人票からは、ほとんど何も分からない
不満の正体が整理でき、転職が有効だと判断したとする。次に直面するのが、会社選びの難しさだ。
ここで正直に書いておくと、求人票から読み取れる情報は、驚くほど少ない。私たち自身が求人を出す側でもあるので、その限界はよく分かっている。
「アットホームな職場です」「風通しの良い社風」「未経験歓迎」「研修制度あり」「先輩がしっかりサポート」。こうした文言は、ほとんどの求人票に並んでいる。だが、その裏にある実態は企業ごとにまったく違う。同じ「研修制度あり」でも、体系的なプログラムを持つ会社と、初日に半日オリエンテーションをやるだけの会社が、同じ表現を使っている。
これは必ずしも嘘をついているわけではない。求人票のフォーマットが、その差を書き分けられるようになっていないのだ。文字数にも制限があるし、応募者を集めるという目的上、どの会社も同じような表現に収束していく。
だから、求人票を読み込んで会社を見極めようとしても限界がある。本当に知りたいことは、面接で聞くしかない。
面接で聞くべき、5つの質問
面接は企業が応募者を選ぶ場であると同時に、応募者が企業を選ぶ場でもある。ここで何を聞くかで、入社後のギャップは大きく減らせる。
抽象的な質問ではなく、具体的な事実を聞くのがコツだ。「風通しはいいですか」と聞いても「いいですよ」としか返ってこない。事実ベースの質問なら、答えに実態が出る。
質問1:直近で入社した方は、今どんな仕事をしていますか
これは「研修制度あり」の実態を測る質問だ。半年前に未経験で入った人が今どうしているかを聞けば、自分の半年後がおおむね見える。答えが具体的なら実態がある。曖昧なら、あまり見ていない可能性が高い。
質問2:この仕事で、いちばん大変なことは何ですか
いい面しか語らない会社は、その時点で判断材料になる。誠実な会社は、大変な部分もきちんと説明する。ここで具体的な苦労を語ってくれるかどうかは、入社後の信頼関係にも直結する。
質問3:入社1年目の方は、どのくらいの割合で続いていますか
離職率をストレートに聞くのは気が引けるかもしれないが、応募者として当然の関心事だ。数字が出てこない、話をそらされる、というのは一つのシグナルになる。
質問4:評価はどのように決まりますか
「頑張りを見ています」のような答えなら、評価基準が整備されていない可能性がある。給与が上がる条件、昇格の基準、誰が評価するのか。ここが不透明な会社は、入社後に「なぜこの評価なのか」で悩むことになる。
質問5:困ったとき、誰に相談することになりますか
特に未経験や中途入社の場合、相談先が明確かどうかは働きやすさを大きく左右する。「みんなで見ています」という答えは、裏を返せば誰も責任を持っていないということでもある。
これらを聞くことで、印象が悪くなるのではと心配する人もいる。だが、こうした質問を歓迎しない会社は、そもそも合わない可能性が高い。応募者が真剣に検討している証拠として受け止める会社を選んだ方がいい。
「転職しない」という選択も、判断のひとつ
整理した結果、転職しないという結論に至ることもある。それは失敗でも後退でもない。立派な判断だ。
不満の正体が「自分の状態」だったなら、まず休むことが先になる。「職種の問題」なら、社内で異動の可能性を探る方が早いかもしれない。「環境の問題」でも、上司との面談で改善できる余地があるかもしれない。
転職は手段であって、目的ではない。解決したい課題があって、それに転職がいちばん有効だと判断できたときに使うカードである。
逆に言えば、整理した上で「やはり転職しかない」と結論が出たなら、その判断には根拠がある。休み明けの勢いで決めた転職とは、まったく質が違う。面接での受け答えにも、その差は必ず出る。
おわりに:休みは、考えるための時間
お盆休みは、日常から離れて自分を見つめ直せる、貴重な時間だ。この時間を、感情的な決断ではなく、冷静な整理に使ってほしい。
不満を分解する。何を解決したいのかを言葉にする。転職が有効な手段かどうかを検討する。有効だと判断したら、会社を見極める質問を準備する。
この順番で進めば、休み明けに焦って動く必要はなくなる。むしろ、休みのあいだに考え抜いた人の方が、その後の転職活動で強い。何を求めているかが明確な人は、面接でもそれが伝わるからだ。
私たちは採用する側の立場だが、応募してくださる方には、そういう整理を済ませた上で来てほしいと思っている。「なんとなく今の会社が嫌で」という理由で入社した方より、「これを解決したくて来ました」という方の方が、入社後にお互い幸せになれる可能性が高いからだ。それは当社に限った話ではない。どこを受けるにしても同じである。
休み明け、どんな結論を出すにせよ、それが納得のいく判断であることを願っている。
